大学院合格後の悩み?進学先決定のためのキャンパスビジット

合格者向けの現役PhD生によるポスターセッション

長い受験準備を経て、晴れてアメリカの大学院合格をいくつかもらえた後にあるのは進学先選びです。嬉しくも難しい悩みですが、その決定を助けてくれるのは「キャンパスビジット」(大学によってはオープンハウスとも呼ばれます)。

2019年の春にアメリカの大学院に出願した、物理専攻の高橋唯基さん(現:カリフォルニア工科大学博士課程)に彼のキャンパスビジットの経験や進学先決定への道のりについてインタビューしました。

-注釈-

当記事はあくまで物理学専攻の学生のキャンパスビジット体験談の一つであり、イベントの形式は各大学や各専攻によって異なる(例えば、生物系ではキャンパスビジットが面接を兼ねる場合もある)ということに注意してください。

1.キャンパスビジットとは?

そもそもキャンパスビジットとは、アメリカの各大学が主催する、大学院合格者が現地のキャンパスに招待され、数日間教授や在学生と交流するイベントです。自分の大学に入学してもらうために、大学側は、キャンパスビジット期間中は朝から夜までひっきりなしに先生や学生と面談や研究室見学、ランチ、ディナーさらに夜はパーティーと、合格者を一日中もてなします。その期間の宿泊費や食費は大学が一部または全額を負担してくれることが多く、さらには現地までの交通費も補助されることがあります(一般的には$200-500/大学)。それだけのお金をかけるのは、アメリカの大学院が優秀な学生を取ろうとする表れでもあります。

多くの大学に合格した学生は、必然的に多くの大学に招待されます。各大学院のキャンパスビジットを短期間にまとめて、移動補助金の合算で自己負担なく渡米することも可能です。

2.大学院留学の動機と出願校選び

成田海 (XPLANE)

 

まず最初に海外大学院進学を決意した動機と、出願校選びについて教えていただけますか?

高橋唯基

私が大学院留学を目指した理由は、素粒子物理に関する研究を低エネルギーの手法を用いて取り組みたいという思いからでした。現に今は、カリフォルニア工科大学にて、低エネルギーの粒子を生成し、近年飛躍的に発展したレーザー冷却・トラップ技術を用いて粒子の性質を測定することで、素粒子物理学の重要課題(CP対称性の破れなど)に迫る研究を行っています。(研究の詳細はこちら)そのため、海外大学院の出願先選びについては、大学を選ぶというよりは、一緒に研究をしたい教授がいる大学に出願した形になります。京都大学在学中には、特に興味のあった教授がいるハーバード大学、カリフォルニア工科大学にそれぞれ約3か月間のインターンシップを行いました。そして最終的には、カリフォルニア工科大学、コロラド大学ボルダー校、ノースウェスタン大学、ハーバード大学の物理学科に合格することができました。キャンパスビジットにて、カリフォルニア工科大学、コロラド大学ボルダー校、ノースウェスタン大学、ハーバード大学の順番で大学に訪問しました。

3-1. カリフォルニア工科大学でのキャンパスビジット

成田海 (XPLANE)

 

一番最初に訪問したカリフォルニア工科大学でのキャンパスビジット体験について詳しく教えていただけますか?

高橋唯基

カリフォルニア工科大学は世界で最も有名な理系大学の一つで、マサチューセッツ工科大学(MIT)のライバル校とも言われます。特に物理学は有名で、MITなどの他の有名大学に比べて非常に小さい大学(大学院生の総数はMITが約7000人、東大が約13000人に対しカリフォルニア工科大学は約1000人!)にもかかわらず、これまでに多くのノーベル物理学賞受賞者を輩出しています。その名声通り、訪問した際も多くの優秀な教授や学生と話をすることができ、自分にとって大きな刺激となるとともに、自分がこのような恵まれた環境でPhDの研究ができる機会が与えられたのを嬉しく思いました。実はこのキャンパスビジットの半年前にインターンですでに訪問していたのですが、このキャンパスビジットを通し、改めてここで自分のPhDの研究をしたいと再認識することができました。

 具体的にこのキャンパスビジットでは、インターンの際に指導をしてくださったProf. Nick Hutzlerともディスカッションをする機会がありました。今までは複雑すぎて量子制御することが非常に困難であった多原子分子の制御を成功させ、この宇宙の対称性の破れを探し、我々の存在理由を探ろうという非常に野心的なアイデアとテクニックを聞いて、「やはり、この研究に参加したい」と強く感じました。しかしながら、これだけ魅力的な研究であるため、ほかにも合格者の中にこの研究室に入りたいと言っている人がおり、しかもこの教授は「今年は多くても一人か二人しか取らない」と言っていたので、カリフォルニア工科大学に合格した後もさらなる競争があるのかと改めてアメリカのトップ大学の厳しさを感じました。

 ちなみに、カリフォルニア工科大学に合格した人のほとんどは、プリンストン大学、スタンフォード大学、ハーバード大学、MITなどの他の有名校に受かっているのが普通であり、有名大学の合格枠は一部の超トップ層が独占しているようでした。このキャンパスビジットでは、そういった同じ年代の超トップ層の友人も多くでき、自分の将来への財産にもなったと感じました。

3-2. コロラド大学ボルダー校でのキャンパスビジット

成田海 (XPLANE)

 

次に、コロラド大学ボルダー校でのキャンパスビジット体験について詳しく教えていただけますか?

高橋唯基

コロラド大学ボルダー校は日本では知名度が非常に低いのですが、特にレーザー物理の分野では、他の超有名校をおさえて数年連続で一位のランキングを獲得し、さらに直近20年でノーベル物理学賞受賞者を4人も輩出するなど(これは本当にすごい!)、まさにレーザー物理をやりたいという人にとっては最高の場所です。また、すぐ近くに国立科学技術標準研究所(NIST)やロッキー山脈もあります。キャンパスビジットの日程の中で、近くの山へのハイキングも入っているほど、こちらでは休日のレジャーとして人気のようでした。Caltechのキャンパスビジットで会った、レーザー物理に興味のある人は、大体こちらの大学にも合格してopen houseに来ており、そのままの流れで仲良くなることができました。

訪問時には、2001年度ノーベル物理学賞受賞者のProf. Eric Cornellと、ノーベル物理学賞最有力候補の一人として名高いProf. Jun Yeと1対1で面談させていただきました。この二人の教授が共同で行っている2原子分子イオンを使った実験に興味を惹かれていたのもあり、非常に貴重な機会でした。この二人がコロラド大学ボルダー校の中でも最も有名な二人であり、多くの合格者がこの二人の研究室に行きたいと言っていまいた。この二人は合格した後の研究室所属の競争率の方が高いほど、大人気の教授でした。

3-3. ノースウェスタン大学でのキャンパスビジット

成田海 (XPLANE)

続いて、ノースウェスタン大学でのキャンパスビジット体験について詳しく教えていただけますか?

高橋唯基

ノースウェスタン大学はシカゴの少し北のエヴァンストンという町にあります。ハーバード大学で非常に有名なProf. Gerald Gabrielseが数年前にノースウェスタン大学に移り新しいセンター(Center for fundamental physics)を建てたと聞き出願しました。新しいセンターの設備は非常に充実しており、予算も相当な額がついていたので、リソースについて困ることはまずなさそうなほど恵まれた環境です。近くにはFermi Labという国立研究所もあり、そこと共同で研究をしている教授や、引き抜かれた若手の研究者も数多くおり、人と設備ともに恵まれた環境であると感じました。

3-4. ハーバード大学でのキャンパスビジット

成田海 (XPLANE)

 最後に、ハーバード大学でのキャンパスビジット体験について詳しく教えていただけますか?

高橋唯基

ハーバード大学の物理学科も、特にレーザー物理が有名であり、業界では超有名でノーベル賞候補と言われる教授が多くいます。また、MITとのjoint centerである極低温原子センターもあることから、ここもレーザー物理を行う場所としては最高の環境です。キャンパスビジットでは多くの超有名教授と面談し、その中で自分に興味を持ってもらうことができました。また、インターンの際にお世話になった原子物理学の世界的権威の一人である、Prof. John Doyleの研究室の先輩や先生ともたくさんお話ができたのもよかったです。また、ハーバード大学の物理学科は上述のMITとのjoint centerもあることから、MITの教授はHarvard大学からの学生も受け入れ可能だそうです。そのため、ボストン滞在中にはMITの教授との面談や研究室見学もさせてもらいました。ここのキャンパスビジットで会った人の中に、カリフォルニア工科大学で見かけた人が多かったので、また顔見知りになることができました。

4.キャンパスビジットを終えて進学先の決定

成田海 (XPLANE)

 

それぞれのキャンパスビジットを踏まえ、進学先はどのようにして決定したのでしょうか?

高橋唯基

今回訪れた大学はどこもレーザー物理をするのに最高の環境でした。その中で、私が進学先選びの際に重視していたのは、研究内容(最重要)や研究設備、さらにはプロジェクトの規模でした。結局私は、カリフォルニア工科大学とハーバード大学とで共同で行っているプロジェクトに一番興味を惹かれました。研究内容も、今までトラップすることを難しいと言われていた粒子である3原子分子を用いており、コロラド大学ボルダー校で取り扱っている2原子分子イオンよりも興味を惹かれました。よって、第一志望はインターンでもお世話になったカリフォルニア工科大学になりました。

 キャンパスビジットを一通り終えた帰国後に、コロラド大学ボルダー校の超有名な二人の教授から、「君をうちの研究室に最優先で迎え入れたい」というオファーをいただき、とても驚きました。しかしながら、一番興味のあったカリフォルニア工科大学の教授から幸いにも「君ならうちに来ても受け入れることが可能だ」との有難いお言葉をいただけたので、ハーバード大学やコロラド大学ボルダー校、ノースウェスターン大学への進学は泣く泣く諦めることになりました。たくさんの優秀な学生がこの研究室に興味を持っていたので無理かもしれないと思っていただけに、この言葉は素直に嬉しかったです。このキャンパスビジットでは、世界トップレベルの学生と交流することができ、自分の価値観が大きく広がったり、新たな視点を得ることができました

 今(2020年5月)は、キャンパスビジットから1年が経ち、コロナウイルスの影響でキャンパスには行けませんが、カルテックで希望した研究室でシミュレーションを中心に楽しく研究をしています。私が研究に携わっている分子のレーザー冷却の分野は、今後10年、20年で大きく発展すると考えられます。そのような分野において、世界に先駆けてPhDで何かしらの業績をあげることは、非常に意義深いものであると考えており、自分の将来のキャリアに繋がるよう研鑽したいと思います! 

インタビュー後記

高橋さんのキャンパスビジットに関するインタビュー記事、いかがでしたでしょうか?出願先・進学先選びは受験を考え始めたときから合格後まで悩むものです。留学準備や留学経験の記事はインターネット上に多くある中、進学先を決定するのに重要なキャンパスビジットの体験記はあまりなかったと思います。この記事が海外大学院進学を考えている人にとって少しでも参考になれば嬉しいです。

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