【イベントレポート#5】人文系・社会科学系の日本人大学院生の就職活動

【イベントレポート#5】
人文系・社会科学系の日本人海外大学院生の就職活動

記事執筆:Yuki Abe(当日の司会進行役)

2021年1月10日にXPLANE主催の「人文系・社会科学系の日本人大学院生の就職活動」をテーマにしたキャリアパネルディスカッションが開催されました。アメリカで博士号(Ph.D.)を取得後、アカデミアの道に進まれた大学の先生を3名、お呼びしました。人文・社会科学系は日本人留学生が少ない分野ということもあり、大学院進学後の就職活動に関する情報が限られる傾向があることから、今回のイベント開催に至りました。

パネリストプロフィール
山崎 華純 先生
Kasumi Yamazaki, Ph.D.
Associate Professor(オハイオ州立トレド大学)
出身校:The University of Toledo, Department of Curriculum & Instruction
専門:Computer-Assisted Language Learning (CALL) ; Technology Enhanced Language Learning, Japanese Language Pedagogy
就活概要:博士号最後の年から就活を開始。Visiting Assistant Professorをしながら就活を継続。アメリカを中心に約40校以上応募。アカデミア以外にも7件応募。カナダやサウジアラビアのポジションも。
水松 巳奈 先生
Mina Mizumatsu, Ph.D.
講師(東洋大学)
出身校:University of Minnesota 比較・国際教育専攻
専門:異文化間教育、大学の国際化
現在の研究テーマ:内なる国際化
就活概要:ペンシルベニア大学で修士号取得のタイミングにボストン・キャリアフォーラムで一般企業に応募した経験あり。その後、東北大学で教員として働きながらミネソタ大学の博士課程に在籍。博士号取得の見込みが取れた頃に日本の大学の教員のポジションに応募。
南 和志 先生
Kazushi Minami, Ph.D.
准教授(大阪大学)
出身校:UT Austin 歴史学部
研究分野はアメリカー東アジア国際関係史
就活概要:2年ほど就職活動をされていた。アメリカのアカデミアを中心に約80校に応募。1年目は2ポジションの最終選考へ。2年目に現在の大学からオファーをもらう。日本のアカデミアではないポジションへ応募する際にはPhDだとOverqualifiedだと言われたことも。
阿部 由季
Yuki Abe
(進行役)
XPLANE運営
出身校:ニューヨーク大学 国際教育修士課程
専門:教育社会学の観点から見る留学生教育

イベントの詳しい内容については動画を参照、ここではいくつかのポイントに絞ってイベントの様子をご紹介します。

日本への就職活動

アカデミアへの就活というとひとつの国に限らず、国をまたいで複数国のポジションに応募する方も少なくないことでしょう。今回登壇いただいた先生方は日本のポジションへの応募を経験されたそうです。その際に感じたことを伺いました。

南先生アメリカよりも日本の方が、実績が素直に評価される傾向があると思います。論文を3本書いている人と4本書いている人がいるとすれば、4本書く人の方が選ばれやすいかと。アメリカで歴史をやるとなれば、自分とポジションの相性が強く関わってきます。

山崎先生:私が就活をしていた約5年前(2014-2015年)、日本のポジションへは応募書類を書留または宅急便で送らないといけませんでした。Eメールで送ってもよいかと聞いたこともありましたが、ダメでした。大学によって履歴書の書式やエッセイのトピックが大きく違いました。一方アメリカでは一般的に求められる書類の型が決まっているので、応募しやすかったですね。

編集部注:現在はオンラインでの応募書類提出を許可している大学も増えてきていますが、書類郵送ではないと受け付けていない大学も多いです。各ポジションの募集要項をご確認ください。

Teaching 経験と模擬授業

人文・社会科学系の分野でのアカデミア就活で避けて通れない壁になるのが、Teaching経験と模擬授業とのこと。必ずしも全ての教員ポジションで求められるものではないようですが、修士や博士課程に在籍しているときからどのようなことを意識して就活に備えていけばよいのでしょうか。

水松先生:業績以外の面で大学院生のうちにTeaching Assistant (TA)を通して「教えるという経験」を磨くのは大事ですね。日本でも教員のポジションによっては、何年以上のTeachingの経験が必要などと書かれているものもあります。教える経験がない場合、そもそも応募できないポジションもあり、応募を諦めてしまう方もいます。

山崎先生:アメリカの大学院生のTAというと、教授の授業をサポートするものと1クラス丸々教えるものとの2つのパターンがあります。私は後者のパターンで経験を積みました。TA経験の年数、どのようなクラスを教えたことがあるのかということが教員職に応募する上で重要視されます。もしTAができない場合は、どこかで非常勤講師として雇ってもらい、様々なクラスを教えるという経験を積むとストライクゾーンが広がるでしょう。

アメリカでも日本でも教員職の採用プロセスでは実際にキャンパスを訪問し、その際に模擬授業をすることが多いようです。模擬授業の経験について詳しく伺いました。

水松先生:特に日本だと多くのポジションで模擬授業があります。

南先生:アメリカでは大学の形態によって変わることと思います。ティーチングを重視する大学の場合は模擬授業のみ、研究重視の大学だと研究のJob Talkに加えて模擬授業があり、大学によって様々です。

山崎先生:大学によっては応募の時点でTeachingの1時間のビデオを送らないといけないところがありました。私の場合は、書類選考ののちにSkype面接、そして現地での模擬授業という流れを経験しました。模擬授業では事前に授業してほしい箇所を伝えられ、その大学の学生を相手に授業することがあり、学生が選考に関わっているというケースがあります。

大学院在学中にできるネットワーキングとは

「就活といえばネットワーキング」大学院に留学している人は教授などを通して言われることが多い言葉なのではないでしょうか。学業と並行してどのようにネットワーキングをし、コネクションを保っていけるのでしょうか。

南先生:アメリカにいる間は、大学院生の学会やワークショップだとより参加者との距離が近くなるので、このようなものに参加するといいかもしれません。アメリカにいながら日本とのコネクションを作るのは簡単なものではありません。特に私は学部卒でアメリカの博士課程に進学し、専攻も変わったので、日本でのコネクションはありませんでした。就活中の長期休暇に日本に一時帰国し、学会に参加したことがありました。そこで知り合った人が現所属の大学の先生と仲が良い方で、後に私のパーソナリティなどをお話しさせていただき、採用に繋がりました。このようなちょっとした出会いもとても大事ですね。

水松先生:学部の時の専門と修士の時の専門が違ったので、修士留学をする前に日本で自分の興味ある先生と繋がる機会を作りました。アメリカの修士課程に進学した後も、その先生が所属するアメリカの学会に参加し、先生がその学会に来られる際に定期的にお会いしてコネクションを保っていました。

学会に出席するということはお金がかかるものですよね。そんな中でもできるネットワーキング方法についても教えていただきました。

山崎先生:今の時代はSNSがあるので、LinkedInやTwitterなどで研究者と繋がれるコミュニティに入るといいのではないかと思います。アクティブに活動をしていくと、何かいい出会いがあるかもしれません。

水松先生:学会に参加することはお金がかかりますが、コロナ禍でオンライン学会が主流なので、交通費が浮くぶんだけ参加のハードルは低くなるかもしれません。

Non-STEM/人文・社会科学系ならではな壁

人文・社会科学系というとSTEM系と比べて留学生やポジションの数が少ない、OPT(アメリカの学生ビザを使った卒業後の就労許可)での就労が1年しか許可されていないという特徴があります。様々な制約がある中で、登壇者の先生方はどのような壁を感じていたのかについてお聞きしました。

山崎先生:学問上の制約を感じたことはありませんでしたが、研究費やフェローシップの機会の少なさを痛感しました。大学院在学中にグラントやフェローシップの取り方に関するワークショップによく参加していましたが、多くはSTEM系のものでした。

南先生:分野によるとは思いますが、特に歴史となると一般企業への就職がSTEMに比べてグッと難しくなりますよね。

水松先生:Non-STEM系で、海外で博士号を取得したことは、私にとっては壁というよりもメリットでした。英語で教えることができる点などにおいてはプラスの要素でした。特に国際教育を学べる大学院が日本ではまだまだ少ないということもあったのかもしれません。

今後のキャリアの展望

南先生:展望というよりも課題があります。今後、日本にいながらアメリカのアカデミアとどのようにコネクションを保ち、関わっていくのかということを課題としています。経済学などは分野全体が国際化していっておりますが、特に私の分野だと日本とアメリカのアカデミアの事情がまったく違うためです。

山崎先生:まずは心と体の健康が大事ですよね。特に今はコロナ禍で逆風な時期ですが、まずは地に足をつけて嵐が去るのを待ちたいですね。その後はテニュアトラックのAssistant Professor時代にできなかった、他大学とのコラボレーションなどの大きなスケールの研究をやっていきたいです。

水松先生:国際教育の研究というのはアメリカなどの欧米の研究が先行としてあり、日本がそれらの研究に追従していく傾向がありました。コロナ禍になり、ICTを使った教育が増え、移動するだけではない交流の場が生まれるようになりました。今は国際教育の分野はチャンスの時代になってきたと思います。今までの欧米発信型ではなく、日本やアジアから発信するような国際教育を日々の実践と研究の中で発信していきたいです。

参考情報

パネルディスカッション中に言及された就活サイトなどのリンクを集めました。

Karen L. Kelsky著『The Professor Is In』 https://theprofessorisin.com/ 
文系大学院生のアカデミック就活において欠かせない書籍・ウェブサイトです。就活に必要な情報・技術を1から説明しています。画一化された内容なので反発もあるのですが、留学生にとっては重宝すると思います。(南先生)

JREC-IN https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekTop
日本のアカデミアや研究機関での公募を集めたサイトです。

次回の記事ではイベント中にカバーしきれなかった質問に答えていただきました。こちらの記事も併せてご覧ください。XPLANEでは今後もキャリアにまつわる様々なパネルディスカッションを開催予定です。今後のイベント情報はXPLANEのSlackTwitterをチェックしてください!