見えないモノを見ようとして米国博士に出願した【海外大学院受験記2021-#11】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第11回である今回は、この秋からアメリカ・マサチューセッツ州のMassachusetts Institute of Technology (MIT)の化学科の博士課程に進学予定の岡部さんに寄稿していただきました。

2021年秋より米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程に進学し化学を専攻します、岡部と申します。現在は東工大の修士課程で生命科学を専攻しています。海外大学院受験を志している方々にとって有益なケーススタディとなればという思いから、この体験談を執筆しました。
MIT訪問時に撮影したGreat Dome

目次

大学院留学を志した理由・きっかけ

人間にとって最も身近な存在でありながらまだその大部分が謎に満ち溢れている点に漠然と興味を抱き、私は大学で生命科学を専攻することを決めました。分子レベルのミクロな現象が生命維持や疾患のメカニズムに大いに関わっています。とりわけ、生体を構成するパーツである蛋白質や核酸分子の複雑な立体構造はこれらの生理的な機能を理解する上で非常に有益な情報となります。この事実を知り、私は物理や化学に基づいて複雑な生命現象を可視化するため技術を開発したいと考えるようになりました。難病の発症メカニズムを分子レベルで解析する方法が確立できたなら、創薬をはじめ医療技術の発展に大きく貢献できると思いました。一方で、進路選択の時期が迫る中で私は研究者としてのキャリアを選択することを躊躇っていました。自分自身が熾烈な競争に耐えうる実力や精神力を兼ね備えていないと決めつけ、無意識のうちに他の同期と同様に修士卒で日本のメーカーに就職する方向にシフトしつつありました。

学部3年時に、私の進路に対する考え方に変化が起こりました。夏休みに米国テキサス州のRice大学、春休みにコネチカット州のYale大学で研究インターンシップに参加しました。インターン中に現地の研究室の学生や教授と交流し、そこで私は海外の大学院で博士過程に進学するという選択肢に出会いました。私は世界中から集まる優秀な研究者や学生と切磋琢磨できる点金銭面でのサポートが充実している点、また博士号取得後に多様な進路選択が可能な点に魅力を感じました。加えて、米国の製薬会社や研究機関とのコラボレーションによって実用的な研究に携われる点にも惹かれました。私は博士号取得後にいずれの進路を選択するにしても、米国への進学は自分の人生において最良の投資になると確信しました。最終的に私は東工大の学士課程を半年短縮で卒業したのちに同修士課程に2年間在学し、ギャップイヤーを挟まずに米国の博士課程に進学する計画を立てました。

出願先選びについて

私の大学院受験は、夏前に興味がある研究室をリストアップするところから始まりました。続いてリストした教授に対してメールでコンタクトを取りました。メールの文面には自分の研究のバックグラウンドと興味関心について触れた上で先方の研究室に参加したいという旨を書きました。メールに書ききれない内容はCVを添付することで補填しました。海外の教授に初めてメールを送るのは緊張するものですが、経験を積むごとにメールの内容や表現に磨きをかけることができました。基本的なことなのですが、複数の教授に個別にメールを送る際にはメールアドレス、宛名、メール文面を混同して間違えないように気をつけましょう(経験あり)。

メールを送った中から大体2~3割くらいの教授から返信をいただくことができました。運が良い場合にはZoomでお話をする時間を設けてくださる教授もいます。私は面談までにその教授の研究室で出版された論文をチェックした上で質問項目を考えました。加えて、自分の研究内容を紹介するための発表用スライドを用意しておくことも効果的だと思います。面談当日は先方の研究室が自分の興味関心とマッチしているかを確認するとともに、教授に対して自分自身を最大限アピールできるよう意識しました。

また、興味がある研究室に所属している現役学生にコンタクトを取ることも非常におすすめです。彼らからは博士課程プログラムへの満足度や出願書類作成のコツ、教授の指導体制など、ウェブサイトでは得られない情報を教えてもらうことができました。

英語の勉強

私はTOEFLのスコアを大学院出願に使用するつもりでしたが、出願年の9月時点では目標とするスコアに到達できていませんでした。日本の民間奨学金の出願締め切りが近づいていたのでマズいと考えた結果、私は思い切って使用する試験をTOEFLからIELTSに切り替えることにしました。出題形式に対する相性があるのでしょうか、試験対策に本腰を入れて3週間ほどで目標スコアを超えることができました。出願先の大学や学科によって使用できる英語試験に違いがありますが、もしTOEFLだけではなくIELTSも使えるようならば選択肢に入れても良いと思います。

GRE Generalは出願の1年前に1回受験したきりでした。形から入ることを好む私は一通り新品の公式テキストを揃えましたが、求められるボキャブラリーのレベルの高さに手も足も出ませんでした。試験直前まで対策を後回しにしたことに加えて、私は試験当日に朝寝坊をしてしまい試験時間を30分以上短縮することになりました。このような受験態度では十分なスコアが取れるはずはありません。幸いにも2020年12月の出願においては多くの大学がGREの提出を受け付けない又は任意としていたため、英語成績が足を引っ張ることはなかったと思います。

出願書類の作成

CV

夏頃に希望する留学先の教授にメールする際に一緒に送るべく、夏前にはCVを一度作成しました。そこから適宜内容を更新していきました。早いうちに自分に合ったCVのフォーマットを見つけておくと何度も構成を大きく変える手間が省けると思います。推薦者の方々に推薦状の作成をお願いする際にも、CVを共有して参考にしてもらいました。

奨学金

XPLANEを含め多くのウェブサイトで海外の大学院に進学する際の奨学金獲得の重要性が強調されています。しかし、博士課程に限れば外部奨学金がなくても出願自体を諦める必要は全くありません。事実、私は大学院出願前の段階で奨学金を獲得できませんでしたが第一志望を含む複数の大学院に合格することができました。そもそもあまり多くの奨学金に申し込んでいなかった点や面接対策が不十分だった点など反省点は多く思い浮かびます。12月の大学院出願段階で奨学金を獲得できていなかったという点では他の優秀な日本人留学生に対し遅れを取っていました。しかし、逆に言えば私は外部奨学金の力を使わずに第一志望に合格できたという事実を誇りに思っています。また、大学院に合格した後ではあったものの、幸いにもある財団の奨学金の補欠合格に滑り込むことができました。大事なことなのでもう一度言います、奨学金に落ちたくらいで絶対に大学院受験を諦めないでください

Statement of Purpose (SoP)

私はSoPを書く際には自分自身の興味関心について触れた上で、最終的にはどのようなゴールを達成したいのか、そのためになぜ大学院進学が必要であるのかが伝わるように意識しました。SoPを書き始めたばかりの頃には、私はただ自分の研究経験を淡々と書き連ねるばかりでした。また、研究について説明する際に専門的な用語や言い回しを多用していました。このようなSoPだと文章全体を通して自分自身の研究者としての価値を広く売り出すことができません。そこで私は知識をパンパンに詰め込むことではなく、いかにして私の研究に対する情熱を読者に伝え共感を得られるかに焦点を当ててSoPを編集し直しました。

XPLANEのSoP執筆支援プログラムはSoP作成の際に大きな助けとなりました。メンターの方々の客観的なアドバイスをもとにSoPの全体像を構築した後に、推敲を繰り返し納得のいく文章に仕上げました。SoP執筆は大学院出願プロセスの中でも特に負担が大きいものでしたが、自分の研究の価値や研究に対するモチベーションを再確認する良い機会となりました。

教授陣の目にとまるSoPを書くうえで、第一段落の書き出しが特に重要になります。一般的に博士プログラムには何百人分もの応募が殺到するため、エッセーの冒頭が魅力的でなければそのままスルーされる可能性が高いでしょう。私の場合には自分の研究がアルツハイマー病と密接に関わる内容であるため、介護士として働く母親について語るところから文章を始めました。大学院合格後にこのことを母親に打ち明けると、エピソードトークが1つ増えたと上機嫌になってもらえました。

推薦状

東工大の指導教員に加えて、冒頭のセクションで述べた米国の研究インターン時にお世話になったRice大学とYale大学の先生に推薦状の執筆をお願いしました。しかし、ここで衝撃的な出来事が起こります。私の海外大学院受験を応援してくれていたYale大学の教授が出願年の夏に突然亡くなってしまったのです。突然の訃報に驚き悲しみに打ちひしがれる中で、私は別の教授に推薦状執筆をお願いしなければならないという現実に直面しました。最終的に、インターン先でお世話になったポスドクの方に推薦状のドラフトを作成してもらい、Yale大学化学科の学科長に推薦状を代理でアップロードしてもらいました。 どの教授も期限までに推薦状をアップロードしてくださりました。感謝してもしきれません。

進学先決定について

私は米国の大学院4校から合格通知をいただきました。その中でも出願時から第一志望として掲げていたMITを進学先として選択しました。研究内容への興味関心に加えて、経済面で非常に充実していた点が進路の決め手となりました。他の大学はCOVID-19の流行に伴いキャパシティが低下したからか、私の受験年の合格者人数は通常よりも少なめである印象でした。しかしMITについては例年と大きく変わらない人数が合格内定を受けていました。Visiting Weekend(内定通知を受けた学生がその大学の博士号プログラムについて深く知るためのイベント)のクオリティにも大学間の差が現れていました。今年はオンラインでの開催であったにもかかわらずMITのVisiting Weekendは非常に良く構成されており、3日間のイベントを飽きることなく楽しむことができました。また、国際便で大学のオリジナルグッズを郵送してくれるなど、積極的に学生を受け入れたい姿勢が顕著に見て取れました。

これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

とにかく多くの人から助言を受けるよう意識するのが大事だと思います。この記事を読んでいる方の中には、周囲の人にコメントを求めることを苦手とする方々もいるかもしれません。自分よりも優秀な人との交流は必ずしも楽しいだけではなく、時に恐怖も伴うかもしれません。他者の優れた点を見ることで自信の欠点が相対的に浮き彫りになってしまうからです。しかし、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺が示すように、長期的な視点で自分にとって何が得かを考えることが重要です。いや、むしろ「聞くは一時の恥」でさえないでしょう。海外大学院受験を経験した先輩方は自身がその大変さや孤独感を身にしみてわかっているため、後輩からの相談に親切に応じてくれます。

私自身は当面、MITという世界で最もサイエンスの研究が熱い環境を堪能しようと思います。機会があればまたお話しできたらと思います。

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