【海外大学院受験記2021-#14】道なき未知をゆく〜リハビリ専門職とMPH〜

XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。第13回である今回は、この秋から英国Imperial College LondonのMaster of Public Healthに進学予定の佐久間さんに寄稿していただきました。

"Imperial College London" by isriya is licensed under CC BY-NC 2.0

はじめまして.理学療法士(PT)として4年半の臨床を経て,今秋からImperial College LondonのMaster of Public Healthへの進学を予定しております佐久間善子と申します.

コロナの影響を受け2020年・2021年と2回に亘って出願プロセスを経験し,出願が終わったかと思えば入学手続きが滞り今なおAdmission Officeから鬼電される日々を過ごしている私ですが,

今回はその中でも、

① 理学療法士が何故MPHを取ろうと思ったのか

②フルタイムで勤務をしながらの大学院出願準備

この2点に注力してお話をさせて頂ければと思います.

1. 大学院受験を志した理由・きっかけ

2007年に公開されたマイケル・ムーア監督作品の『SiCKO*1–––

保険充実度が先進国中最下位であるアメリカの医療事情を赤裸々に綴ったドキュメンタリームービーで,作中では作業中の事故で2本の指を切断した男性が,医師から「縫合するためには薬指は12,000ドル,中指では60,000ドルかかる」と言われ高額な中指を諦めざるを得ない姿が描かれています.

親戚に海外居住者が多いため,国外の医療事情について聞き及ぶ機会はあったのですが,国民皆保険制度の恩恵を当たり前のように享受していたティーンエイジャーの私にとって,医療弱者が直面する”格差”はまさに青天の霹靂でした.

それからというもの国際医療の現場を実際に見てみたいと,最寄りの病院まで6時間かかるサハラ砂漠で蠍とエンカウントしたり,はたまたカンボジアの仮設病院で朝から晩まで義足の調整屋と化したりと,リハビリテーションという概念が存在し得なかった地域に実際に足を運んだ事がきっかけで,新興国や低中所得国(LMICs)におけるリハビリテーションの普及・医療政策評価に興味を持つようになりました.

MPHは人気の高い学位故にRed Oceanと揶揄されることもありますが,リハビリ専門職でLMICsの医療評価に取り組んでいる先生は非常に少数です.国家資格という特性上,どうしても自国を出る選択肢を取りにくいといった背景がありますが,世界には障がいと共に生きている人が10億人,その80%の人々はLMICsで生活をしていますから,まだMPH x PT x LMICsで様々試みる余地があるのではと心躍らせています.

Sicko_at_the_Cannes_FF_by_tangi_bertin_on_May_19,_2007
"Michael Moore inside - Sicko" by tangi_bertin is licensed under CC BY-SA 2.0

2. 海外大学院出願で苦労した点

大学を卒業後は三次救急の病院で臨床を行う日々でしたので,公衆衛生学に類する研究実績・コネクションは全く持っていませんでした.

また,”留学経験のあるPT”といっても理学療法の手技習得や国際免許の取得を目的に行かれていた先生が殆どでしたので,留学全般に関して大きく助けて頂いた一方,国・大学選び・PhDを視野に入れたラボ探し・卒後のキャリアパスをどう考えるのか.留学の骨子を具体的にどのように詰めてゆくかは文字通り,暗中模索といった体だったのを覚えています.

MPH卒後の進路に関しては,インターネットで気になる論文やラボを探し,気になる教授が居たらメールでコンタクトを取り,個別ミーティングやオンラインセミナーを利用する.皆様がご経験のある通り,返信率は驚きの低さではありましたが,そんなご縁の中から自分の興味と近い教授や勉強会を紹介して頂く機会を経て,ようやく修士卒業後の道筋までイメージを持てるようになりました.

3. 海外大学院出願で上手くいった点

Public HealthだけでなくGIS*2に関しても並行して学びを深めたいと考えていたのですが,どの大学でもMPHの履修科目にGISは含んでおらず…ダメ元でGISの講座を持っている教授や学部の担当者に学部・学科を跨いでの履修と単位認定が可能か相談をし,色良い返事をくれたImperial College Londonへの進学を決めました.出願プロセスを経てみると何事も交渉ありきだと痛感するばかりですが,オファーの受諾期限ギリギリまで粘って良かったと思うことの1つです.

また,出願を進める上で職場の上司・同僚の理解を得られた事は非常に大きな助けになりました.院内外の業務を最後まで責任持って果たす事を条件に,IELTSの試験日に休みを取りやすいようチーム内で調整をしてくれたり,はたまた出願書類準備の佳境には業務量を多少融通してくれたりと,さながら二人三脚での出願だったと言えるかもしれません.

4. 英語の勉強に関して

海外に1人で行ってなんとかなる程度の英語力(というよりボディランゲージ力と顔芸)はありましたが,フルタイムで働きながらのスコアメイキングは心身ともに厳しいものがありました.

平日は1日2時間,オフの日には8時間の学習時間を確保するようにし,細く長くをモットーに1年半学習を続けました.業務や研究に忙殺されて学習が数ヶ月途絶えてしまった時期もありましたので,私にはこの期間設定が合っていたように思います.

映画鑑賞が英語学習に良いと効き及び,イギリス英語を勉強しようとしてハリーポッターシリーズを全作観たこともあったのですが,闇の魔術に関する語彙が潤沢になった他,あまりメリットを感じることはありませんでした.シャドーイングも兼ねて『BBC 6min English』を視聴することを是非にオススメ致します.

5. テスト(IELTS)の対策 

※イギリスへの出願ではGREは要求されませんので割愛させて頂きます


IELTSの対策はいわゆるゴールドスタンダードのものしか使っていませんので,参考程度に留めて頂ければといった所なのですが,

ListeningやSpeakingの勉強には上述しましたBBC 6min Englishのシャドーイング(Speakingで出題されるTopicsに対しても汎用性が高いです)と,その年その時期のSpeaking問題が網羅されている海外のサイトを利用しました.

Academic Reading & Writingに関しては色々な教材が出ていますが,ReadingはIELTS必須英単語4400とIELTSの公式問題集であるCambridge Englishの最新3冊分を使用,Writingは自主学習のみですと6.0で頭打ちになってしまったので,最終的にWriting添削を数回利用しスコアを伸ばしました.

6. 出願書類作成に関して(奨学金、SoP、推薦状)

奨学金

留学を考えた時,誰にとっても資金源をどう確保するかがボトルネックかと思います.私はPhDへの進学を希望しているので金額の大きい奨学金は温存し,併給が可能な少額の奨学金を中心に申し込みを行いました.

大口の奨学金はXPLANEで網羅して下さっていますし,イギリス国内の小口奨学金でしたら,先日XPLANE Slack内でも言及されていた The Alternative guide to postgraduate funding(特に25歳以下の方ですと選択肢が多いように思います)で一括検索が可能です.

SoP

専門の添削エージェントは利用せず,各大学が明示しているSoPのガイドラインに基づいて仕上げました(SoP執筆支援プログラムを出願時には存じ上げませんでしたので,アドバイスを仰げたらどんなに心強かった事かと思いますが).出願した4校分SoPを書き分けたのですが,それぞれの大学によって要求される内容が微妙に異なりましたので,志望校の要項を熟読されることを是非にお勧め致します.

推薦状

中国を中心に理学療法教育の啓蒙活動をされている出身大学の副学長と,学部時代・臨床時代に亘ってお世話になった指導教諭のお二方に書いて頂きました.兎にも角にも忙しいお二方でしたので, 推薦状の依頼は出願の3〜4ヶ月前に行っています.

7. 進学先選びについて

あくまでも私個人の意見なのですが,イギリス留学はGREの準備が不要で,英語力に関しても最悪Pre-Sessional Course*3の受講という救済措置がありますので,留学準備やスコアメイキングに時間を取りにくい社会人の方にも門扉が開かれた選択肢なのではと思っています.

文系・理系それぞれをとってみても学位の種類が豊富(Taught Master, Research Master…etc)なのもイギリスの大学院の特徴かと思いますので,ご自身の強みを最大限に生かせる学位へ出願ができるのが良い点ではないでしょうか.

それに加えて,英国の教育機関を卒業した人は国内で最長2年間の就労が可能になる(博士課程卒業者は3年) The Graduate Route のスキームが2021年夏から開始されますので,卒後海外での就職を考えている方にとっても,英国への進学は非常に魅力的になり得るのやもしれません

8. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

私からお伝えできることとすると,大学院へ出願する方へというよりも,海外留学を検討されている医療職の方へのメッセージになってしまいますが…

臨床を早い段階で離れる,又は臨床を知らずに留学する事に賛否あるかと思いますが,国によって医療制度や治療の第一選択・業務の線引きが様々な分,多くを経験できる環境に飛び込んでみる選択は決して悪手にはならない筈です.

理学療法士の例をとってみてみると,日本国内にはおよそ13万人*4の理学療法士が居ますが,そのうち海外に在籍する療法士は私も含め103人,日本理学療法士協会に登録されている留学経験のあるセラピストは20人弱と,総数の1%にすら遠く及ばない状況です.

国内での臨床を経てからでも決して大学院留学・海外の現場を経験する事は遠いものではないと思っておりますし,恩師の言葉をお借りすると「日本の外から日本をみる」経験は何にも代え難いものになると信じています.

医療職で留学を検討しているけれども,どのようにプロセスを進めてゆけば良いか悩んでいる方がもしいらっしゃいましたら,私でもご相談に乗れるかと思いますし,スポーツや徒手療法・呼吸療法・感染症医学などの分野で各国に留学経験のある先生にお繋ぎすることも可能ですので,是非ご連絡を頂ければ嬉しく思います.

Twitter: @Ingu_ligam
E-mail: ysksh1108@gmail.com

(執筆者注)

*1 Sicko: 変人・狂人
*2 GIS: Geographic Information Systemの略.地理情報を統合し視覚的に分析を行うシステム.
*3 Pre-sessional Course: 各大学附属の語学コース.語学スコアが入学要件を満たしていない場合,このコースの修了をもってスコアに代えられる.コースの合格率はImperial College Londonで98%(過去5年),King’s College Londonでも98%(2019)と比較的高水準.
*4 2021年3月末時点

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