地球を舞台に活躍できる研究者になりたい!【海外大学院受験記2021-#4】

XPLANE連載企画「海外大学院受験記2021」では、今年度海外大学院への出願を終えたばかりの方の最新の体験を共有していただいています。今回は、地球惑星科学専攻でこの秋から米国マサチューセッツ州のMassachusetts Institute of Technologyの博士課程(Department of Earth, Atmospheric and Planetary Sciences, 通称EAPS)に進学されるAyakoさんに寄稿していただきました。

目次

1. 自己紹介

地球物理学者を目指して研究を続けているAyakoです。地震や火山噴火、プレート運動に伴う地形の変化など、地球上で見られる多様な物理現象におけるメカニズムの解明を目指しています。
アメリカ西部に位置するデスバレー国立公園。最高気温は50℃を超えることもあるが、
かつて地球全体が氷河に覆われていたとされる「全球凍結」の痕跡が残されている。
アメリカ西部に位置するデスバレー国立公園。最高気温は50℃を超えることもあるが、 かつて地球全体が氷河に覆われていたとされる「全球凍結」の痕跡が残されている。

2. 大学院留学を志した理由・きっかけ

もともと研究者志望で、博士課程への進学自体は高校生の時から漠然と考えていました。最初は日本の大学院に進学するつもりでしたので、実際に大学院留学を志したタイミングは2020年の3月頃、出願締め切りの約10ヶ月前でした。出願を決断したきっかけは、アメリカの博士課程を経験した研究者から話を聞いたこと、そして米国大学院における経済的な支援制度の存在を知ったことの2点が大きかったように思います。

2-1. アメリカの博士号を取得した日本人研究者との出会い

2019年12月、当時東京工業大学の修士1年生だった私は、アメリカのサンフランシスコで開催された国際学会に参加しました。その際、米国で博士号を取得し現在は研究者として活躍されている先輩から大学院留学についてのお話を伺いました。学会に参加する前までは、「日本で博士号を取得した後にポスドクとして米国で研究できたらいいな」と考えていました。しかし、実際に米国の学会で熱心に議論をされている先輩の姿や、アメリカの大学院で研究に従事する同世代の博士課程の学生の姿を見て、「学生時代から多様性に富んだコミュニティの中で自分の研究のオリジナリティを磨き上げ、新しい専門分野を確立させて科学の発展に貢献したい」と思うようになりました。

2-2. 米国博士課程における経済的な支援制度の存在

日本の博士課程に進学する上での不安要素の一つが経済事情*1でした。日本の博士課程に在籍し、経済的な不安を抱えずに生活を維持するためには、学振特別研究員(DC1, DC2) *2や民間奨学金など倍率の高い審査を通過する必要がありました。一方、米国の博士課程では学費や生活費が大学から支給される場合が多く、博士号を取得するまではあまり経済的な不安を抱えずに研究に集中することが可能です。私は修士2年の春に学振DC1に申請しましたが、不採用だった場合に備えて、学費や生活費などの経済支援が充実している米国大学院への出願準備を同じタイミングで始めました。

学会開催地のサンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジ
学会開催地のサンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジ

3. 出願前の所属での専攻分野・研究内容に関して

専攻分野は地球惑星科学で、地球から惑星までかなり幅広い分野を扱う総合的な学問です。研究分野は地球上で発生する様々な物理現象を扱う地球物理学分野で、特に地震のメカニズムの多様性に興味があります。地震の発生する場所、深さ、水の存在有無などの環境条件によって個々の地震の発生過程がどのように変化するのかを定量的に説明できるようにすることが目標です。現在は、地球深部(およそ300 km以深)で発生する深発地震のメカニズムや、内陸地震後の余震活動における地震波スペクトルの多様性について研究しています。
低周波地震で有名なParkfieldにある北米プレートへの入口@サンアンドレアス断層
低周波地震で有名なParkfieldにある北米プレートへの入口@サンアンドレアス断層

4. 海外大学院出願で苦労した点・うまくいった点・エピソード

XPLANEのSlackコミュニティではすでに海外の大学院に在籍されている大学院生や社会人の方々から直接お話を伺うだけでなく、SoP(Statement of Purpose)執筆支援活動や受験生交流会にも参加させていただきました。特にSoPの執筆支援を9月頃から実施していただいたことは、自分の博士課程における目標を明確化することに繋がりました。

私が一番苦労したのは出願校選びでした。2020年は実際に渡航して現地の大学院の雰囲気を知ることができなかったので、春から夏にかけて様々な大学のHPを閲覧し、現在の自分の研究テーマに合いそうな教員や研究室を調べました。各研究室のHPに掲載されている出版済みの論文もいくつか読みましたが、入学後に自分が従事する可能性のある進行中の研究プロジェクトを知りたかったので、少しでも興味を持った研究室には事前にメールで連絡を取り、オンライン通話で直接話を伺いました。また、2020年9月に参加したアメリカ国内のオンライン学会では、自分の発表時間の数日前までに気になる教員にメールで招待状を送り、発表内容に対するフィードバックをもらいました。出願先候補の大学を事前に訪問することはできなかったものの、個別のミーティングやオンライン学会などの機会を積極的に利用することで、必要な情報を収集することができました。

夏休みが明けてからはXPLANEのSoP執筆支援プロジェクトに参加し、博士課程における自分の目標を明確化させました。研究内容に関しては専門家からのフィードバックが必要だったことに加えて、博士課程で取り組みたい研究の方向性が今一つ明確に定まっていなかったため、米国で研究員として働いている日本人研究者の方に相談しました。その際、複数の教員の名前を挙げていただいたのですが、中でも私の研究計画にぴったりの研究者がいるということで、MITの先生(後の指導教官)を紹介していただきました。当時は英語要件(TOEFL iBT 100)を満たしていなかったので、MITへの出願はあまり検討していなかったのですが、自己紹介として自分の研究内容をまとめたポスターを送ったところ、相手方からZoomの招待が送られてきたので個別ミーティングをすることになりました。約1時間にわたるミーティングでは、現在の研究内容に関する質問に加えて、米国大学院を志望する理由や興味のある研究内容について詳しく聞かれました。当時は全く気づきませんでしたが、振り返ってみればこれが事実上の面接試験だったように思います。

地層が有名なグランドキャニオン国立公園。この日の歩数は45000歩を超えていて大変な道のりでしたが、英語の勉強はそれ以上に大変でした。
地層が有名なグランドキャニオン国立公園。この日の歩数は45000歩を超えていて大変な道のりでしたが、英語の勉強はそれ以上に大変でした。

5. 英語の勉強に関して

学部1年次に初めてTOEFL iBTを受験したときの点数は52/120点で、特にReadingは制限時間を全て使ったにも関わらず、3/20点しか取れなかった苦い思い出があります。その当時は大学院留学を強く意識していたわけではなかったので、通学などの隙間時間で英語のPodcastを聴いたり、大学の支援制度を利用してe-Learningに取り組んだりと、大学生活の中でコツコツと英語の勉強を趣味感覚で続けていました。

実際に大学院受験を意識した2020年の3月以降では、6月上旬に1回、8月下旬に1回それぞれTOEFLを受験しました。XPLANEのデータにもある通り、私も100点を目指してTOEFLの勉強に励んでいたのですが、受験した結果はそれぞれ91点と98点でわずかに届きませんでした。9月以降は他の予定も詰まっており、それ以上の時間とお金をかける余裕もなかったことに加えて、MIT以外の出願校については最低要件を満たしていたので、結局出願した全ての大学に98点のスコアレポートを送付しました。

出願締切後の1月初旬、MITから「最終審査を通過させるために、できれば2月4日までに英語要件(TOEFL iBT 100)を満たしてほしい」との連絡を受けたので、月末締切の修士論文の執筆と並行して1月に2回ほどTOEFLを受験しました。一度目は96点に下がってしまったため、二度目は苦手なReadingとListening、そして単語の詰め込み勉強をしてようやく101点まで点数が上がりました。その後、スコアレポートを送付して1月下旬にようやくメールで正式な合格通知が届きました。偶然かもしれませんが、一度目と二度目の試験の間に志望先の研究室の学生からオンラインミーティングの招待が届き、学生やポスドクから励ましの言葉をいただきました。合格が決まっていないにも関わらず、積極的に応援してくれた研究室の雰囲気は進学先を決断する上で一つの決め手になりました

6. 進学先選びについて

非常に悩みました。幸いにも複数校から奨学金付きのオファーをいただいたのですが、全ての合格者向け説明会「Open House*3」に出席して慎重に検討しました。どの大学にもそれぞれの魅力があり、研究内容はどれも面白そうだったのですが、最終的にはアカデミアの職を得ることを目標に、将来的な研究の発展性と自分の興味に基づいて進学先を決定しました。また、所属するMITの研究グループには同じボストン周辺に位置する他大学の学生や教員も参加しており、多様なバックグラウンドを持った研究者と交流できる機会が多いことも理由の一つでした。

MIT EAPSの建物。キャンパス内で一番高い建物で地球上を見渡すのにピッタリ!
MIT EAPSの建物。キャンパス内で一番高い建物で地球上を見渡すのにピッタリ!

7. これから海外大学院へ出願する人へのメッセージ・アドバイス

私が大学院受験時に大切だと感じたのは研究室とのマッチングでした。これは出願するプログラムとその選考方法にも依存しますが、選考委員会が学生を選ぶ「プログラムベース」ではなく、研究室の教員が学生を選んで選考委員会に推薦する「研究室ベース」の選考方法である場合は、成績やテストスコアよりも出願者本人の意思と研究室とのマッチング度合いが見られていたように思います。もちろん、学業成績やTOEFLのスコアが出願先の大学の最低基準を満たしていることは第一条件ですが、自分がこれまで取り組んできた活動と今後取り組む予定の研究内容における一貫性に加えて、将来的に解明したい研究分野を明確にしておくことは、受験に限らず博士号取得を目指す過程においても非常に大切だと感じています。

受験記の最後として、東工大での指導教官をはじめ、修士1年次の留学でお世話になったUC Berkeleyの教授、研究者の方々、そして海外大学院進学の実現に向けてサポートしてくださった全ての方に感謝を申し上げます。

(編注)

*1 経済的支援(貸与型奨学金を除く)を受けている博士課程学生の割合は日本では37%に留まり(米国では約9割)、生活費相当額(年間180万円)以上の受給は1割程度である(参考資料1, 参考資料2)。一方で2021年度から、政府は博士課程に進学する学生の半数に生活費相当額を支給するという目標を掲げ、新制度の整備を進めている(科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業)。また、大学・コースによっては博士課程リーディングプログラムの対象として支援が受けられる場合もある。
*2 日本学術振興会による博士課程在学者向けの特別研究員制度。多くの博士課程の1年次向けのDC1に採用された大学院博士課程在学者には、研究奨励金として月額20万円が3年間支給される(2021年4月時点、https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_oubo.html)。
*3 合格者のみが招待されるガイダンスのようなイベント。Visiting Weekendとも呼ばれる(別記事参照)。オンライン下で開催されたが、教授との個別ミーティングや、学生とオンラインゲームで交流しながら大学生活に関する質疑応答を行う楽しいアクティビティも用意されていた(Ayakoさん談)。
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